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プロセスレコード実例集 やる気のない中堅看護師編(管理者の立場から)

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本来であれば、リーダーシップを発揮して、スタッフを引っ張っていってほしい中堅クラスの看護師ですが、いつも挨拶もそっけなく、やる気を感じない40代の女性看護師です。

そういう態度のため、周りのスタッフからも彼女に対する不満がよく聞かれます。

ある時、受け持ち患者さんの採血データに異常値があり、すぐに医師へ報告するべき事項であったが、彼女は医師への報告はせず、その日のリーダーにメモでのみ伝えたため、結果的に、医師への報告が遅くなり、リーダーが医師より注意を受ける場面があった。

他にも、チームメンバーとのコミュニケーションが図れず、自分の担当患者さんの検査や治療の誘導を、責任をもって行わず、チームのメンバーがフォローをすることもたびたびでした。

スタッフは、不平・不満がたまり、看護師長へ相談をしました。

それを受けて、看護師長が彼女と面談を行った場面です。

日勤業務終了後、面談室にて

看護師長

この前、受け持ち患者さんの採血データの異常値、

先生に報告しなかったの?

中堅看護師

はい・・・

看護師長の心の声

「はい・・・」って、そのことの重大性をわかっているのかしら。

それとも、もう忘れてる?

看護師長

その時、どうして先生に報告しなかったの?

中堅看護師

たぶん、忘れんたんだと思います

看護師長の心の声

忘れたじゃ、済まされないでしょ。

真剣に患者さんのことを考えているのかしら?

看護師長

どうして、忘れたの?

中堅看護師

ん~、何かちがうことをしていて、忘れました。

看護師長の心の声

もう中堅クラスなのに、そんな大事な事、なんで忘れるんだろう。

看護師長

あの時は、そんなに忙しくなかったから、報告する時間はあったんじゃない?

中堅看護師

はい・・・

看護師長の心の声

「はい・・・」って、もう少ししっかりしてほしいわ。

私が言ってもこんな態度だから、スタッフから不満がでるのも当然ね。

どうしたらいいかしら。

問題分析

中堅看護師以外に問題はあるでしょうか?

チームメンバーも、最初から諦めて、彼女とコミュニケーションを図ろうとせず、チーム同士の情報共有が上手くいっていない現状があります。そのため、彼女はいつも一人で業務をしている印象です。

医師が病棟に来る時間が不定期であるため、受け持ち看護師が医師に報告するのは難しい状況にあります。

その日は、入院や転院の患者さんが多く、情報収集にはかなり時間を要する状況だったようです。

指導する看護師長の問題は?

彼女に何度も指摘しても変わらないので、半ば指導を諦めていたところもある。

知らず知らずのうちに「中堅看護師だから」という、一般的なフレームにはめ込んで、話を進めていて、彼女の個別性を軽視してしまっていた。

彼女の態度が周りに悪影響を及ぼしているため、彼女に不満が集まるのも、自業自得だと思っていた。

看護師長の立場で、この状況を変えることは可能なのでしょうか?

彼女にだけ行動変容を期待するだけではなく、周りのスタッフの行動変容を促してみる。

「なんで」「どうして」の質問ではなく、彼女の考えを聞く、質問をしてみる。

まずは、ねぎらいの声掛けをしてみて、彼女の反応をみてみる。

相手の気持ちや意見を聞きだす会話を心がける

後日改めて、勤務終了後に看護師長室にて。。。

看護師長

あ、〇〇さん、お疲れ様。

今日も忙しかったね。疲れているところ、悪いけど、少し時間もらってもいい?

中堅看護師

はい、大丈夫です。なんですか。。。

看護師長の心の声

まあ、いつもの返事だけど、彼女も落ち着いているみたいだから、

少し話をしてみようかしら。

看護師長

何度も同じ話で、申し訳ないんだけど、この前の受け持ち患者さんの採血データの異常値の件、わたしとしても、やっぱり、すぐに先生に報告すべきだったんじゃないかな、と思って。

報告できなかった理由が、何かあったんじゃない?

中堅看護師

ん~、そういえば、あの時、情報収集している途中に、異常値に気付きましたが、その日は、入院と転院の患者さんも担当に付いていたので、まずは、その患者さんの情報をすぐにとらなきゃ、と思って、少し焦ってました。

患者さんの異常値については、先生もその場にいなかったので、後で先生に報告しようと思っていたら、忘れてしまいました。

後で気付いて、報告しようとしたら、すでに先生の回診が終わっていたので、リーダーにメモを残しました。

看護師の心の声

あら、彼女から「焦っていた」なんて言葉が出るとは思わなかった。

表情や態度には出ないけど、彼女もそういう時があるのね。

ーその日に彼女の受け持ち担当を確認してみるー

確かに、この日の彼女の担当患者さん、他のスタッフよりも多いし、これに入院と転院の患者さんもいれば、大変な勤務だったわね。全然、気づかなかった。

最初の指導の時、まずは、ねぎらいの言葉をかけてあげなきゃいけなかったわ。

看護師長

受け持ち患者さんも多いし、それに加えて、入院、転院の対応で大変な勤務だったのね、気づかずにごめんなさい。

中堅看護師

いいんです。いつものことなので。

わたしも、患者さんの採血データの異常値の報告がすぐにできなかったことは、悪かったと思っています。

焦っちゃうと、優先順位の判断が上手くできなくなるので、今後は注意します。

看護師長の心の声

態度からはわからなかったけど、彼女も、いろいろ考えていて、自分のこともわかっているようね。

あと、業務の割り振り方も、考えなきゃいけないわね。

知らず知らず、彼女に負荷のかかる割り振りになっていたのも、問題なのかもしれないわね。

看護師長

自分でどうしようもないときは、私にも相談してほしいわ。

それから、あなたの業務状況についても、周りのスタッフともっと共有したほうがいいわね。

もしも、スタッフに言いにくいことがあれば、私に言ってもらえばもいいわよ。わたしがいないときは、主任にも状況を説明しておくから、主任に相談してみてね。

中堅看護師

わかりました。今度からは、困ったら、師長さんや主任に相談するようにします。

お気遣いいただいて、ありがとうございました。

看護師長の心の声

やっぱり、話してみないと分からないものね。

わたしも、スタッフの意見のほうに偏っていて、彼女の本心に気付いていなかったわ。反省しなきゃ。

2つの場面を通しての気付き

★相手の気持ちを引き出す会話には、まずは相手をねぎらいの言葉が重要。

★相手が「気づき」を得られるような声掛けが必要。

★他のスタッフの意見が本当に正しいのかをしっかり見極めて、事実をしっかり確認することが重要。

★彼女が、医師への報告を忘れた原因の一つに、彼女の業務過多があることが判明。中堅看護師だから、という見方から、知らず知らずに彼女の業務が多くなりがちな状況が普段から生まれていた。

★彼女が「焦っている」状況を誰もわからず、周りのフォローが得られない状況があった。

★自分の思いと他人から見られている印象はまったく違うことがある。

まとめ

「中堅看護師だから、これぐらいの仕事ができる、やってくれる」という固定観念から、一人の看護師に業務が集中している環境要因に誰も気付かず、それを処理できない看護師が問題かのように見えてしまった事例です。

もちろん、ここで出てくる中堅看護師にまったく問題がなかったわけではありませんが、彼女が浮いた存在になってしまった要因は、彼女の周りの環境要因にもあった思います。

彼女が自ら、自分の状況を発信して、助けを求めることができれば、ここまで大きな問題にはならなかったと思います。

しかし、数の原理で、病棟のほとんどのスタッフが、彼女に対して不満をもって、積極的にコミュニケーションをとろうしない状況があれば、彼女から情報発信することはかなり難しいでしょう。その悪循環が、今回の問題の根源のようです。

この問題解決に必要だったことは、やはり、彼女の「考え」「思い」を聞くことでした。

看護師長は、普段から、公平な立場でスタッフの意見を聞くことが重要であると、気づかされる事例でした。